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東京高等裁判所 平成6年(行ケ)95号 判決

広島県福山市御門町1丁目2番4号

原告

矢吹學

東京都千代田区霞が関三丁目4番3号

被告

特許庁長官

高島章

指定代理人

板橋通孝

宇山絋一

奥村寿一

涌井幸一

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由

第1  当事者の求めた判決

1  原告

特許庁が、平成1年審判第12431号事件について、平成6年2月22日にした審決を取り消す。

訴訟費用は被告の負担とする。

2  被告

主文同旨

第2  当事者間に争いのない事実

1  特許庁における手続の経緯

原告は、昭和54年2月14日、名称を「半導体制御回路」とする発明(以下「本願発明」という。)につき特許出願をした(昭和54年特許願第15899号)が、平成元年7月18日に拒絶査定を受けたので、同年8月5日、これに対する不服の審判の請求をした。

特許庁は、同請求を平成1年審判第12431号として審理したうえ、平成6年2月22日、「本件審判の請求は、成り立たない。」との審決をし、その謄本は、同年3月28日、原告に送達された。

2  本願明細書の特許請求の範囲第1項の記載

「ダイオードブリッジ、トランジスタ、サイリスタを用いた制御回路において、ダイオードブリッジの接続容量を利用して、サイリスタの保持電流を供給することを特徴とする半導体制御回路。」(平成3年8月24日付け手続補正書により補正されたもの)

3  審決の理由の要旨

審決は、平成3年8月24日付け手続補正書により補正された明細書及び図面によっても、発明の詳細な説明及び図面について、「何故トランジスタとサイリスタとを直列にするのか、発明の意図するところが明らかではなく、当業者と雖も理解できず、これでは容易に実施することができると認めることはできない。」、「サイリスタのオンとオフとが、どの時点で何故生じるのか明確な記載がない。・・・サイリスタの動作に伴うトランジスタの動作もまた明らかではなく、それらの動作を示す具体的な波形の図示もなされていないので、当業者と雖も本願発明を容易に実施をすることができない。」とし、特許請求の範囲の記載について、「本願の発明の詳細な説明の記載からは、完結した発明、すなわち所定の目的、構成および効果を具備した発明を把握することができない。それ故、特許請求の範囲に記載された発明は、発明の詳細な説明に記載された発明と対応せず、発明の詳細な説明の記載による裏づけがない。したがって、本願の特許請求の範囲には、発明の詳細な説明に記載した発明の構成に欠くことができない事項のみが記載されていると認めることができず・・・不備は、依然として解消されていない。」、「本願の特許請求の範囲には、ダイオードブリッジ、トランジスタ、サイリスタが列挙されているのみで、結合関係が全く示されておらず、何らかの機能を達成できるものでもない。この点からみても、本願の特許請求の範囲には、発明の構成に欠くことのできない事項が記載されていると認めることができない。」とし、本願は、明細書及び図面の記載が不備のため、特許法36条3項及び4項(昭和62年法律第27号による改正前のもの)に規定する要件を満たしていないから、拒絶すべきものと判断した。

第3  原告主張の審決取消事由の要点

本願発明は、ダイオードブリッジの接続容量を利用して、サイリスタの保持電流を供給した制御回路において、トランジスタ継続接続サイリスタからなる、半導体の動作原理を解析したものである。

トランジスタ継続接続サイリスタにおいて、継続接続下のサイリスタの正帰還作用を利用して、トランジスタの負帰還容量をゲート極から供給すれば、トランジスタを起動させることができる。このことから、ベース・ゲート電流からなるトランジスタの正・負帰還容量の制御電流を供給すれば、トランジスタは、高利得の直流電流増巾率利得のコレクタ電圧電流を出力し、サイリスタの保持電流を極めて巧妙に供給する。そして、トランジスタ継続接続サイリスタを、単一の制御電流で断続駆動させることができる。

本願発明は、上記を要旨とするものであり、上記手続補正書により補正された明細書及び図面(甲第2号証)には技術的裏付けができていないという不備があったが、本取消訴訟において、その不備を解消すべく新たな明細書及び図面(甲第3号証)を提出したので、これによって本願発明は特許されるべきである。

第4  被告の反論の要点

審決の認定判断は正当であり、原告主張の取消事由は理由がない。

第5  証拠

本件記録中の書証目録の記載を引用する。書証の成立については、いずれも当事者間に争いがない。

第6  当裁判所の判断

1  原告が特許庁において提出した平成3年8月24日付け手続補正書により補正された明細書及び図面(甲第2号証)には技術的裏付けとなる記載が不十分であったことは原告自身も認めるところである。そして、その記載に不備があるとした審決の認定が正当であることは、その説示するところからも明らかである。

原告は、本取消訴訟において、その不備を解消すべく新たな明細書及び図面(甲第3号証)を提出したので、本願発明は特許されるべきであると主張するが、特許庁に提出されていない明細書及び図面(なお、原告が、本訴弁論終結後に参考資料として送付した明細書及び図面についても同じ。)を前提として、本願発明が特許されるべきか否かを判断することは、本取消訴訟においてもとより許されない。

2  そうすると、原告主張の審決取消事由は理由がなく、審決にはこれを取り消すべき瑕疵は見当たらない。

よって、原告の請求を棄却することとし、訴訟費用の負担につき、行政事件訴訟法7条、民事訴訟法89条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 牧野利明 裁判官 山下和明 裁判官 芝田俊文)

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